ロイド達がセレスの元へ来た時から、確信こそなかったけれど嫌な予想はついていたのだ。
ゼロスが死んだ。
そう伝えに来た彼らの中に当然の如く彼は居なくて、それが何よりの証拠だった。

彼らはそしてセレスに伝えた。
ゼロスがセレスに神子を譲ろうとした事、ゼロスがセレスを愛していた事。

何て残酷なのだろう、とセレスは思う。
それをセレスに伝えてしまう事がどれだけ残酷な事なのか、彼らは理解しているのだろうか。
きっと分かっていない。何ひとつ、分かっている筈が無い。
それが彼らの申し訳なさそうな顔と相まって、更にセレスを苛つかせた。
クルシスの輝石を渡されて、ごめん、と謝られる。
貴方達がころしたのに、と言いそうになるのを堪えながら、セレスは何も言わずに黙っていた。




ロイド達が去った後、セレスは窓の外、去って行く彼らの後ろ姿を黙ったままで見つめていた。
姿が見えなくなってから暫くして、セレスがゆっくりと空を見上げる。



「……お兄、様」
一度も呼べなかった名前。何もかもがもう遅い。
伝えられなかった言葉がたくさん溢れてきて、セレスは思わず硬く目を瞑った。
顔を伏せる。もう何も見えない。

(ごめんなさい、お兄様。…ごめ……)


部屋の隅で控えていたトクナガが、静かに出て行く音がする。ワイルダー家の執事は皆優秀だった。深く踏み込みすぎる事をしない。
遠のいて行く足音。窓の外で小鳥が鳴いている。ごぅん、と大きく響く修道院の鐘の音も、静かに海が波打つ音も、全てが別世界のものの様だった。
今この瞬間確かなのはひとつ、ゼロスが死んでしまったという事実だけ。
押し寄せてくるのは後悔ばかりで、今更どうしようも無い。


お兄様。私の、大切な。



私の一番、大切、だった、





(…それなのに今は、もう)



膝の上に置いた手を固く固く握りしめる。爪が掌に食い込む痛みなんて気にせずに。
溢れ出した涙は、とまらなかった。