高い丘の上から眺める夜というものは案外明るく、見渡せる風景だとか夜の空気だとか優しい風とかが、とても綺麗で心地良いものだった。
他の仲間達が寝静まる中、こっそりと(きっと気付いていただろうクラトスには、それでも見逃して貰って)抜け出したふたりは今、静かに世界を眺めている。静かに、ただ黙って。
夜の静寂が辺り一帯を包み込む。虫の声だけが微かに響いて、存在を主張していた。或いは、コレットにだけは、他のたくさんのものたちの声や音も聞こえていたかもしれない。


「…花、散っちゃってるみたい」

足下の花びら達を見つめながら、沈黙を破ったのはコレットだった。
風強かったもんね、と言って残念そうに笑う。

少し前にも一度、この場所を訪れた事はあった。その時はまだ昼間で明るく、晴れた空の下にたくさんの花が咲いているのがとても綺麗だと思った。
今はその花は散ってしまい、ただ花びらだけが残されている。
世界は今日も動いていて、同じである事は無いのだとそう知らしめられる様だ。

そんな事、言われなくても解っているのに。


そうしていると、不意にコレットがしゃがみ込んだ。
「コレット?」
どうかしたのか、とロイドが問うと、何でも無いよと微笑みを返される。
「あのね、散っちゃった花びらを、拾いたいなって思って」


拾ってどうするのか、とは聞かなかった。
きっとコレットにだって、そんな事はわからない。



ロイドが月を見上げる。
拾い集めた沢山の花びらを抱えながら、コレットもまた月を見上げた。
「綺麗だね、」コレットの言葉に、ロイドもああ、と頷き返す。
今丘の上には、ロイドとコレットしか居なかった。ふたりで並んで月を見上げる。

「すごく、きれい。」





とん、


瞬間、軽やかにコレットの躰が舞い上がった。
そしてロイドの目の前にあった、背の高い岩の上に着地する。まるで花びらのような羽根が、きらきらとした輝きを纏って彼女の背に現れていた。
コレットが両腕を広げると、其処に収まっていた沢山の花びらが舞い落ちる。
まるで雨の様に、花を降らせた。


ロイドが呆気に取られてそれを見ていると、コレットがくるりとそちらを振り返り、そして笑う。



「わたしは幸せだよ、ロイド」





大きな満月の下で、コレットの羽が一層輝く。
ずっとこの美しい夜が続けば良いのにと、そう願った。


(それが叶わない願いだということは、もう知ってしまっていたけれど)